「義姉様……」

 愚か者どもに毅然と立ち向かう義姉の凛とした姿を想像し、私はぐっと奥歯を噛み締めました。
 そんな私にしがみつき、グライスとパルスが泣きそうな声で言うのです。

「ねえ、姉様」
「アヴィス姉様、どうか」

「「母様を助けてください」」

 私も、愛しい甥と姪を両腕に抱きしめて答えました。

「もちろんです」

 ところがここで、猛然と抗議の声が上がります。
 ギュスターヴから私のお守りを任されたというメイドのドリーです。
 彼女は私の両肩を鷲掴みにし、ぐぐっと顔を近づけて噛み付かんばかりに言いました。

「ちょっと、安請け合いしないでちょうだい! その身体が魔王様の血肉でできているとはいえ、お前の戦闘力は生前と変わらないのよ! 多く見積もっても五! ゴミよ!?」
「そんなはずはありません。確かに丸腰ではそのくらいの戦闘力かもしれませんが、今の私には強力な武器がございます。こちら、門番の大腿骨──略して、モンコツ」
「モンコツだかポンコツだか知らないけど、そんな骨一本で何ができるっていうのっ!!」
「まあ、殴るの一択なんですけど」

 私の答えに納得がいかないらしいドリーが、この身の程知らず! と詰ります。
 それにしても、キャンキャンとうるさいったらありません。
 まるで躾のなっていない犬のようです。
 山羊娘なんですから、可愛くメエメエ鳴いていればいいものを。
 いい加減、お説教にもうんざりとした私は、目の前で忙しなく開閉していた顎を掴みました。

「あがっ!?」

 とたんに口を閉じられなくなったドリーが喘ぎます。
 私は、彼女の間抜け面を真正面から見据えて言いました。
 
「確かに、私は強くはありませんが……この身になって得たものがございます」
「えはほほ?」
「はい。それは、思い切りのよさ、です」
「ほ……?」

 痛覚がないため傷を負うのも恐ろしくありませんし、人の身より丈夫なので多少の無理もできます。
 魔王や魔物の血肉で生きているせいか、生前のような倫理観も持ち合わせておりませんから、ひとを殴りつけようとも一切罪悪感を覚えません。
 むしろ、ワックワクします。
 何より……