トニーとはローゼン家の家令の三男で、グリュン城の門番を務めております。
 半月前、エミールを助けようとグリュン城を訪れた際に再会し、私を悼んで涙を流すいじらしい彼の姿にたいそう心を打たれたものです。
 あの時、せめてもの慰めに、と私は確かに髪を飾っていた赤い宝石をトニーに与えたのでした。
 慎ましい彼は持て余したそれを換金することもなく、私の形見としてグライスとパルスに譲ったようです。
 双子はそれを媒介とし、見知らぬ何者かから教わった魔法陣でもって、私をここに呼び出しました。
 ドリーと、ちょうど私の顔面に張り付いていたジゼルもそれに巻き込まれ、一緒にこうして地界に召喚されてしまったというわけです。
 それにしても、どうしてグライスとパルスはこの秘密の書斎にいたのでしょうか。
 そんな問いに返ってきた答えは、信じがたいものでした。

「エミール様に追い出されて国外に逃げていた前の大臣が、急にうちに押しかけてきたんだ」
「ローゼオ家の人間を人質にして、父様にエミール様をやっつけるように言うんだって」

 それを聞いた私は、思わず鼻で笑ってしまいそうになりました。
 前政権の残党が、あまりにも愚かな要求を掲げているからです。

「兄様がエミールを裏切ることなど絶対にありえません。義姉様も、それをご存知のはずです」
「うん。だから母様は、死を覚悟してぼく達をお隠しになったんだ」
「何があっても──母様を殺すって言われても、二人で隠れていなさいって」

 双子の話によると、ローゼオ侯爵家は現在反乱軍に占拠されているとのこと。
 当主である兄様はもうずっとグリュン城に詰めたままだといいますから、きっと義姉様が当主代理として、一緒に人質となった使用人達を守ろうと奮闘しているに違いありません。