突然、足下に現れた魔法陣のようなもの。
 そこから迸る光に、私とメイドのドリー、それから私の顔に張り付いた何者かはなす術もなく呑み込まれてしまいました。
 床を踏みしめる感覚が消え失せ、ふっと内臓が浮き上がるような心地がします。
 けれども、それも一瞬のこと。
 やがて光が収まる気配を感じた私は、きつく瞑っていた瞼をおそるおそる開き──

「ここは……」

 呆気に取られました。
 なにしろ目の前の光景が、ついさっきまでとはガラリと変わってしまっていたのですから。
 光に包まれる前、私達は魔王城の一室にいました。城の主であるギュスターヴの命で、メイドのドリーが調えた私の部屋です。
 光が透ける薄いシフォンのカーテンがかかった大きな窓があり、いつも明るくて開放的なあの部屋を、実を言うと私はなかなか気に入っています。
 ところが、今いるこの場所には窓が一切ありません。
 外の光も入らず、部屋の隅に置かれた小さなテーブルの上で燭台が一つ燃えているだけでした。
 壁という壁に作り付けられた本棚には天井の高さまでびっしりと本が詰まっていて、閉塞感と圧迫感に息が詰まりそう。
 しかしながら──私は、この場所に見覚えがありました。

「ここは……ローゼオ家の秘密の書斎です……」
「ローゼオ家って……確か、アヴィスの生前の実家よね?」

 呆然と呟く私の肩を抱いてドリーが問います。
 そうなのです。
 ここは私が生まれ育ったローゼオ侯爵家の一室で、出入り口の扉は厳重に隠されており、家令さえも知らされていない場所なのです。
 最上階三階にある表向きの書斎の、奥の奥のさらに奥に位置しております。
 そんな秘密の書斎に、魔界にいたはずの自分達が一体なぜ、そしてどうやって来てしまったのでしょう。
 私がドリーと顔を見合わせて首をひねっておりますと……