「私が与えた私の血肉で、アヴィスは今生きている。誰が何と言おうと──天使が、神が、アヴィス本人が否定しようとも、あれは私の唯一無二の子だ」


 あまりにもまっすぐなその想いに、カリガはこの時、不覚にも胸を打たれた。
 天使が魔王の言葉に感動するなんて、あってはならないことだ。
 すぐに我に返った彼は、ブンブンと頭を振ってそんな自分自身を否定した。
 ギュスターヴも、これ以上何も得られないと思ったのだろう。
 小さくため息を吐いて踵を返した。
 
「まあ、いい。貴様がここにいる限り、アヴィスに接触することは叶うまい。あれに危害が及ばないのならば、天使や神が何を企んでいようと構わん」

 そう言って、カツカツと靴を鳴らして戻っていく主君に、ノエルも続こうとする。
 けれども、元同僚のよしみか、彼は一瞬立ち止まってカリガを振り返った。

「カリガ、あなたもきっと分かっているとは思いますが──神は、見ているだけですよ?」
 
 堕ちた天使に言われるまでもない。
 神は、今この瞬間も、きっと天上からカリガのことを見守っているだろうが、その手を差し伸べて彼をここから救い出すことはないだろう。
 カリガがこのまま闇の中で朽ち果てようとも、きっと見ているだけだろう。
 今、彼をかろうじて生かしている、どこかから降り注ぐ髪一筋の光は、天上の光ではなく魔界の紛い物の光だ。
 光が完全になくなれば、カリガはすぐさま闇に呑まれ、消滅するか、あるいは堕ちるだろう──ノエルのように。
 
「私は、間違ったのでしょうか……」

 カリガの問いに、答えは返らない。
 確かなのは、今この瞬間もカリガに慈悲を与えているのは、神ではなく魔王であるということだけだった。