「今のアヴィスには痛覚がない。しかし、ただの人間であった頃のあれが、地界で貴様に毒を飲まされて絶命する際、いったいどれほどの苦痛を味わったのだろうかと思うと……」

 静かに語り出したギュスターヴは、ここで一度言葉を切った。
 炎で青白く照らされたその美貌を仰ぎを見て、カリガは言葉を失う。


「私は──怒りで頭の中が焼き切れそうになる」


 ギュスターヴは静かな声のまま、けれども何もかもを圧倒するような、鮮烈な憤怒を滲ませてそう告げた。
 それに、うんうんと頷いて同意したノエルも、呆然としている元同僚に向かって言う。

「たとえば、魔王様とあなたがアヴィスを取り合って、あの子の左右の腕をそれぞれ引っ張るとします」
「は……?」
「あの子が痛いと言ったら──いいえ、眉をちょっと顰めただけでも、魔王様はすぐさま手を離すでしょう。けれども、カリガ。あなたは、あの子が泣き叫ぼうと腕の骨が外れようと離さない。そして、それが何よりも正しいことだと思っている──愚かですね」
「何を……」

 ここで初めて動揺を覚えたように、神の使徒の瞳がゆらゆらと揺れ始めた。
 ギュスターヴの激情が収まるのに比例して炎も勢いを緩めたが、いまだチリチリと天使の翼の先を焦がしている。
 それには構わず、カリガは震える声でブツブツと言い出した。

「あ、あの子は……アヴィスは、天界に置いておかないといけないのです。だって、だってだって、そうでないと……」