アヴィスの魂を天界に連れ帰ろうと、無謀にも単身魔界に忍び込んできた天使カリガ。
 ギュスターヴに左翼を切り裂かれた後、彼の処遇は元同僚であるノエルに一任されていたが……

「それで? こいつはアヴィスに執着する理由を吐いたのか?」
「いいえ。残念ながら、まだです」
「なんだ、ノエル。貴様にしては手こずっているな。元同僚が相手だとやりにくいか?」
「いえ、それがですね……」

 その時、足下を這いずって近づいてきた満身創痍のカリガが、ギュスターヴのブーツをガッと掴む。
 それを振り払うでもなく静かに見下ろしてきた魔王を、天使は果敢にもぐっと睨み上げて言った。

「拷問ごときで神の使徒を屈服させられるとは思わないでください。痛みも苦しみも屈辱も、神が与えたもうた試練だと思えば、我々に耐えられぬものなどないのですから!」
「この通り、神を疑うことを知らない天使に、身体を痛めつけるような拷問は無意味です。そもそも……」
「もっと──もっと、ひどいことをしてごらんなさいよ! たとえば、この足で踏みつけるとか! さあ!」
「カリガはドMなので、拷問しても逆に喜ばせるばかりでして……」

 とたん、心底嫌そうな顔をしたギュスターヴが、足にへばりついていたカリガを振り払う。
 すると、満身創痍の天使は足下に叩きつけられてイタッと小さく悲鳴を上げたが、その後ろにハートマークが付いていたような気がして、ギュスターヴはさらに鬱陶しそうな顔をした。
 彼はカツンとブーツの底を鳴らして一歩前へ出ると、這いつくばったままの相手に問う。