九割が魔王ギュスターヴの血肉で構成されている私の身体ですが、あとの一割はあの酒宴に同席した魔物達の血肉であり、メイドのドリーもその一端を担っているらしいのです。
 現在判明している他のメンバーは、堕天使ノエルと夢魔オランジュ。それから、ギュスターヴに細切れにされて焼き尽くされた吸血鬼ジゼル。
 ギュスターヴやノエルのように幼児を慈しむみたいな愛情を向けてくる者もいれば、オランジュのような巣にしまっちゃいたい派や、ジゼルみたいな食べちゃいたい派がいたりとさまざまです。
 ドリーは私に対して基本的には無害なのですが、直情的なので相手にするのはなかなか疲れます。

「くるしい……おもい……」
「──はっ! つい……」

 手足をジタバタさせて抗議しますと、ようやく我に返った彼女が慌てて私を抱き起こしました。
 痛覚以外の感覚はありますので、ぎゅうぎゅうされると苦しいですし、伸し掛かられれば普通に重いのです。
 ドリーはメイドの本分を発揮して、私の髪や衣服の乱れをパパパッと直します。
 最後に私の後頭部をなでなでし、コブができていないのを確かめてようやく安堵のため息を吐きました。
 それから、彼女はコホンとわざとらしく咳払いをして口を開きます。
 
「とにかく、魔王様からお前のお守りをするよう仰せつかったの! せいぜい、私の手を煩わせないでほしいものだわ! お茶でも飲む!?」
「セリフに一貫性がありませんね。お茶は結構です」
「お前、本当に全然飲み食いしないのね。魔王様が心配していらっしゃるっていうのに……じゃ、じゃあ……しょうがないわね! 私の精気を吸わせてあげてもいいわよ!」
「結構です。お呼びじゃないです。もじもじしないでください。気色悪い」

 んーっと唇を尖らせて迫ってきたドリーの顔を、私は手のひらでむぎゅっと押し戻してきっぱりと拒絶しました。
 ギュスターヴをはじめ、魔物達はやたらと私に自分の精気を吸わせたがりますが、一体何なのでしょうか。
 キスをしたいだけなのでしょうか。
 それなら、したい者同士ですればいいと思います。
 何でもかんでも私を巻き込まないでいただきたいものです。