ちゃんと話せるかどうかわからない。
でも、わたしは、わたしの言葉でママと話をしないといけないから。
ガチャ。
玄関の扉が開く音が聞こえて、思わず顔を上げた。
足音が聞こえて、それからすぐにママが見える。


「……ただいま……おかえり?」


困ったように笑うママ。


「……おかえり、ただいま」


きっとわたしも同じような笑い方をしてたと思う。
それから、ほんの少しだけ静かな時間が続いた。
緊張して、心臓が口から出ちゃいそう。目を閉じて、ゆっくり息を吐く。
落ち着いて、大丈夫。きっと、大丈夫だから。
何回か呼吸をして、そしてママを見た。


「ごめんなさい」
「……季衣」
「ママを傷つけて、悲しい思いをさせて、本当にごめんなさい」


ずっと、そんな顔をさせたくなくて黙ってたのに。
怒って、ママのせいにして、逃げて。


「わたしが悪いの。ママの洋服を、自信もって着れなかったから」


ママの洋服を着てたのは、ママに喜んでもらうため。
でも、ほんとうは──


「ママの洋服、だいすきなの」


からかわれたりしても、わたしはママの洋服が好きだった。
わたしには似合わないだけで、洋服だけはずっと可愛かったんだから。


「ごめんなさい、……ごめんなさい」
「季衣……!」


ママが立ち上がって、わたしを後ろから抱きしめる。