識くんは関係ない。
それにだれにもイジメられてなんかない。
むしろ、みんなわたしのことを大切にしようとしてくれてる。


「……ママはね、前の学校のときみたいに、季衣には辛い思いをしてほしくないだけなの。男の子の格好してる意味は……わからないけど、でも、教えて? どうして……どうしてなの」


辛い思いをしてた。
前の学校は、わたしのことをからかう人ばかりで。
でもそれは──


「……ママの、服」
「え?」
「ママが作ってくれる服を着てたから……イジメられてたの」


中学に上がって、制服を着るようになっても、小学校時代を知ってる人たちは、ずっとわたしのことをバカにしてた。
『似合わない』『自分のことお姫様だと思ってる』『イタイ人』
そんなことばかり言われて、友達なんか作れなくて。


「……そんなッ」


ママの目にたくさんの涙が溜まっていく。


「イジメられてたのは、ママのせい!」
「季衣……!」


リビングを出て急いで自分の部屋に閉じこもった。
ママが追いかけてくる足音が聞こえて、耳をふさいだ。


「き……い、ね、がい……はなし」


扉の向こうから声が聞こえる。でもずっと、耳をふさいで聞こえないようにした。
それから静かになって、ママがリビングに戻ったことがわかる。


「……うっ……ごめん、なさい」


あんなこと言って、ママを傷つけた。