「あ、あの識くん……? わたしは職員室に─」
「おお、識! 間に合ったな。(いのり)が遅えってカンカンだぞ」


体育祭から出てきたのはオレンジの髪をした男の子。
前髪を黄色の星の形をしたピンで留めていた。


海音(かいん)、お前またずっと食ってたんだろ。口にチョコついてるからふけよ」
「うお! 祈に見つかったらヤベッ!」


パーカーの袖でゴシゴシと口をふいた海音くんは、わたしに気付いて二カッと笑った。


「参加すんだろ? ほら、入れよ」
「え? あ、ちが──」


とん、と背中を押されて、そのまま会場の中に入ってしまった。
たくさんの椅子が並んで、一番前には長いテーブル。そこに二人の男の子が座っていた。
一人はメガネをかけた黒い髪の男の子。
その隣に頭をぐらぐらさせながら眠ってる水色の髪の男の子。
どうやらあの人たちが審査?する人みたいだけど……。
すると、黒い髪の男の子が、手元の資料から顔を上げた。


「識。迷子の子はどこです」
「祈、そんな眉間にシワ寄せてたら老けるからやめろよ」
「好きでやってるわけではありません」


どうやらあの人が、祈くんという男の子らしい。
識くんが、ほら、とわたしを前に歩かせようとする。


「迷子連れて来てんだろうが」
「……おかしいですね。本人からは長髪が目印だって聞いてましたが」


メガネの奥から、祈くんがじーっとわたしを見た。