その日、識くんが生徒会室に来ることも、教室に来ることもなかった。
話を聞きたいのに、それを拒むみたいに、皆の前から消えてしまって。
識くんの話を聞きたいのに。
なんで識くんは、犯人を庇っているんだろう。


「い……き、い……季衣?」
「!」


気付いたら、家に帰っていて、リビングにいた。目の前にはママが作ってくれたごはんが並んでいる。今日はハンバーグだ。


「どうしたの? お腹すいてない?」


すごく心配そうな顔をしているママに、咄嗟に「ううん!」と笑顔を作る。


「ちょっとボーっとしちゃってただけ。ごはんありがとう! いただきます」


できるだけママには心配させたくない。
せっかく新しい学校にも通わせてもらってるんだし、ママにはママがやりたいことに時間を使ってほしい。


『……すみません、納期は来週までには必ず』


わたしが悩んでいるとき、ママは新しい学校を探すために、仕事の時間を削ってくれていた。
そのせいで、ママのドレスを待ってる人たちからの電話に追われていて。
だから、もう二度とそうなってほしくないから、わたしは学校でもうまくやらないといけない。
……たとえ、今は識くんのことがあっても、わたしは笑ってないと。


「ねえ、季衣?」
「んー?」
「なにかあったら、遠慮なく言っていいのよ?」
「え……」