「よし、じゃあ季衣! 俺を信じろ!」
「へ?」


初めて男の子に名前で呼ばれた。
でも今はそれどころじゃなくて、識くんはわたしを受け止めようと待っててくれてる。
信じてみてもいいのかな……?
怖くて、でも今ならここを飛び込えられそうな気がする。
ぎゅっと目を閉じて、それから「えいっ!」とジャンプすると──


「行けたな!」


ぽすっと抱きしめられて、いい香りが鼻をくすぐっていった。
目を開けると、識くんにとびっきりな笑顔で頭を撫でられた。


「やるじゃん季衣!」


うっわ……識くんって、ものすごくかっこいい……!
緊張してまともに顔なんて見てなかった。
そんなことを思ってると、識くんが慌てたようにスマホを取り出して時間を確認した。


「って、こんなところで時間使ってる場合じゃないか。行くぞ」
「わ、わかりましたっ!」


バタバタと走りながら、私よりも大きな背中を見る。
太陽でキラキラ眩しい。こんな人もいるんだ。
今まで、男の子はみんな、わたしをからかってくる子ばかりだったから。
識くんみたいな男の子もいるんだって思ったら、これからの学園生活に少し安心した。


「ほら、ここが会場」


案内されたのは職員室──


「あれ……ここって?」


じゃなくて、体育館みたいな場所の前。
そこには【Kis/met新人オーディション】と書かれた看板が出ていた。