「識くん……?」
「俺さ、人を殴ることで自分を見つけたかったんだよ」


ぽつ、ぽつ、と識くんが話してくれる。


「家が金持ちだってだけで変に嫉妬されて、家でも一善の名の恥じないようなことをするなってうるさく言われてさ」
「……うん」
「毎日、自分の時間なんてなかった。英才教育ってやつ? そういうのばっかで、なんか生きてる意味がわかんなくなって」
「……うん」
「とりあえず家出て、街の中彷徨ってたら不良にケンカ売られてさ。今まで人なんか殴ったことなかったのに、動き方がわかるっていうか。どうかわして、どう殴ったらいいか、全部頭の中でわかったんだよ」


想像してみる。
一人で家を出た識くんを。
あてもなく歩いていた識くんを。


「……人を殴ってるときだけ、自分がここにいる意味が見えた気がしたっていうか。そういうの繰り返してたら、いつの間にか暴走族のトップになってた。でもなにも楽しくなくてさ。あっという間にやめたわけ。そういうの、やりたかったわけじゃねえし」


暴走族はやめたけど、きっと今も、そのときの名残りが続いている。
だから知らない人にまで名前を知られてるし、今でもケンカを売られてしまうのだろう。


「……だけど、今も自分がよくわからねえ。人を殴るってことが好きでもねえけど、売られたらかうしかねえな。そういうのばっか続けてるからさ」