気付いたら倒れていた男子生徒はいなくなっていて、識くんを敵対視していた人たちも怖いものから逃げるみたいに去っていく。
その間、わたしはなにも出来なくて、見ていることしか出来なくて──


「そろそろ出てきてもいいぞ」


汗ひとつかいてない識くんが明らかにわたしがいるほうを見て振り向いた。
もしかして、ずっとここにいるって気付いてた……?
一歩ずつ歩いていき、識くんがいる場所へと近付く。
怒られるかもって思ったけど、


「また季衣に会えるとかラッキーかよ」


識くんはわたしが知ってる顔で笑った。
そこに恐怖なんてどこにもなくて、暴走族のトップだったなんてこともうそみたいに思える。


「あーあ、季衣には知られたくなかったんだけどな」
「えっ……ど、どうして?」
「俺がこんなやつだって知って、幻滅しただろ」


幻滅……?
どうしてそんなことを思う必要あるんだろう。


「そんなわけないよ。だって識くんは、ケガしてた男の子のことを助けたんだよね?」


ずっと、わたしたちと同じ制服を着た男子生徒のことを気遣ってた。


「”また”ってことは、今までも同じようなことがあったのかなって思って」


識くんは人助けをしてた。
それなのに、幻滅なんてするわけない。


「……はは、そっか。季衣にはそう見えてくれんのか」


でも、識くんはどこか傷ついたみたいに笑ってた。