そんなわけないって思うのに、今の後ろ姿を見ていたら、断言すらできない。
それに、ボーリングに行く前の会話を思い出す。
あのとき、どうしてよくケンカをふっかけられるのか聞いたとき、識くんは「知らね」って言ってた。
でも本当はわかってたとしたら?
そしたら辻褄があってしまう。
だって、ここにいる人たち全員、識くんのことを知ってるんだから。


「昔の話を引っ張りだしてくんなよ。別に大したことでもねーのに」


心底呆れてるみたいな顔で、識くんは倒れてる男子生徒に近付く。


「おい、生きてんのか? また金取られたんなら取り返してやるよ」


しゃがみ込んで話しかけるけど、男子生徒が答える気配はない。
識くんは前髪を鬱陶しそうにかきあげる。


「ええと、1、2……ま、ざっと雑魚10人か」
「ふざけんなごらああ! 20人はいるんだよバカが!」


ブオンブオンと識くんを威嚇するように鳴るバイクの音。
ここにいたら絶対危ないって思うのに……


「雑魚が10から20に増えたところで大して変わんねえだろ」


鼻で笑った識くんは、ふらりと立ち上がる。
それからはもう一瞬だった。
識くんを大勢の人が殴ろうとしたりするのに、それをひょいっとかわして逆に殴り返したりとか。
一度だって識くんは殴られることなく、あっという間に20人をボコボコにしてしまった。
時間にしたら5分もかかってない。