「わり、季衣。ここで解散な」


呼びかけようとしたら、識くんにそう言われた。
しかも識くんはどこかを見つめたまま。
一度もわたしを見ることなく、なにかを目で追いかけている。


「あ、うん……わかった」


なんだろう、識くんの雰囲気が変わった気がする。
いつも通りなんだけど、なんていうか、ちょっと鋭さがあるっていうか。


「帰りは、向こうから行け。こっち、工事してるみたいだからよ」
「え……工事は……」


看板もなければ、音も聞こえない。
でも識くんがそう言うなら、そうなのだろう。
言われた通り、来た道を戻るみたいにして帰る。
振り返ると、識くんは一人、工事があると言っていた場所へと向かっている。
……このまま帰って、本当にいいのかな?
さっきの識くん、ちょっと違ったし……。
「少しだけ、見るだけ……きっとなにもないだろうし……うん、確かめるだけ」
自分に言い聞かせて、識くんが姿を消した場所へと速足で向かう。
もともと人通りが多かったわけじゃないけど、行けば行くほど薄暗くなって、人も一人いない。
空がどんどん曇り始めていた。


「……大丈夫、なにもないはず……なにも」
「こいつ一善だぞ!」


いきなり誰かの叫び声みたいなのが聞こえて、ぴたっと足が止まる。
一善って……識くんの苗字だよね?
もしかしてこの先に識くんがいるの?
すると、耳を塞ぎたくなるような音が辺りに響く。
これってバイクの音?