ママがデザインしたキレイなお洋服が汚れちゃうし、スカートだと思い切って遊ぶことも出来なかった。
でも今は、人生で初めてぐらいのズボンで、なんならここにママだっていない。
今だけなら、いいよね……?
よいしょと登ると、さっきの男の子が見えた。


「……って高いっ!」
「これぐらい楽勝じゃね?」
「む、ムリです! こんな高いところ登ったことなくて!」
「まじかよ……あーじゃあ、受け止めてやる!」


そういって真っ赤な髪の男の子は手を広げる。
もしかして、飛び込めってこと……?
それこそ絶対できない!


「やっぱりっていうか、絶対ムリです……!」


油断したら手も足もブルブル震えてきちゃいそう。
やっぱりママの言う通り、わたしはこんなことしたらいけなかったんだ。
怖くてぎゅっと目を閉じる。
もしこのまま落ちたりでもしたら?
そもそも着地とか失敗しちゃったら?
骨が折れるかもしれないし、ケガだってするかもしれない。


「なあ!」


男の子がわたしを呼んだ。


「……あの、ごめんなさい。降りれないので別の道から……」
「そうじゃなくて! お前の名前聞いてなかったなと思って」


名前?
あ、そっか。わたしも男の子の名前知らない。
そおっとまぶたを開けたら、真っ直ぐできれいな瞳と目が合った。


「……す、涼風 季衣(すずかぜ きい)、です」
「俺は一善 識(いちぜん しき)


その名前を心の中でつぶやく。