「ご、ごめんね……安心したら、ちょっと腰が抜けたっていうか」


こんな血を見たことなくて、もしかして識くんが死んじゃってるんじゃないかって思ったら怖かった。


「わりー。心配かけて。朝からケンカふっかけられて、さっき終わったんだよ」
「朝からケンカ……?」


あ、もしかしてさっき女の子たちが話してたことって、識くんたちのことだったのかな。


「でもさすがに疲れたっていうか……ちょっと休憩しようと思って」
「それで、ここに寝てたの……? でも、そんなに疲れてたならお家に帰ったほうが」
「だめだろ、季衣と約束してんのに」
「え……?」
「今日は俺と過ごす日だろ?」
「じゃあ、そのために学校まで来てくれたの?」


識くんは、ふっと力なく笑って、


「当たり前じゃん」


そう言って目を閉じた。
なんだかその姿は、今まで見ていた識くんとは少しちがうっていうか……大人っぽく見えた。


「……ケンカ、多いの?」
「あー、ま、よくケンカ売られるな。前ほどじゃねーけど」
「え?」
「中学入ってすぐぐらいは、先輩とかに目つけられるのも多かったし。他校も相変わらず多かったけどな」
「なんでそんなに目をつけられるんだろう……」
「……さ、知らね」


今、変な間があったような……?
でも識くんはそれ以上なにも言わなくて、わたしの気のせいなのかなって思うようにした。