ガタガタと音がして、地面まで揺れた気がする。
わたしの質問に、祈くんはすこしびっくりしたような顔をした。


「そんなことを言われたのは初めてです」
「そうなの?」
「ええ、いつも聞かれることは勉強のことですし……それに、僕が電車好きだということは、誰も知りませんから」


そこまで、祈くんは徹底してたんだ。
好きなものを、ずっと隠して、周りに期待される自分でいるために。


「……いざ選ぶとなると難しいですが、やはり全部ですかね」


照れくさそうにしながらも、天井を見る祈くん。
選べないくらい好きなんだ。


「あの、わたしって全然電車に詳しくないんだけど……でも、もしよかったらこれからも電車の話してくれないかな?」
「なぜあなたに?」
「だって、隠してるってやっぱり辛いよ」


わたしだって、男の子みたいな格好してることをママに隠してることは辛い。
さっきも見つかりそうって思った途端に、どうしようって焦ってばかりで。


「だから、せめてわたしと一緒にいるときは、祈くんが好きなものを好きでいられたらなって……あっ、もちろんわたしじゃなくてもいいんだけどね!」


話せる人がひとりでもいたら、祈くんの心はちょっとでも明るくなってくれるかなって。
弁護士とか医者にならないといけない問題もあるかもだけど、でも今だけは、この時間だけはそういうことも忘れられたらうれしい。


「……完敗ですね」


祈くんの目がとてもやわらかい。


「僕はあなたが必要かもしれません」
「え……?」
「気が変わりました。あなたにはどうしてもKis/metに入ってもらいます」
「ちょ、ちょっと待って……!?」