改めて周りを見ても、とてもきれいとは言えない。
高い制服なんて気にすることなく、祈くんは地べたに座った。


「何があったかは聞きません。落ち着くまではここにいましょう」


祈くんはそう言ったきりなにも聞かなかった。
気になるはずなのに、ただ静かに川を眺めていて。
わたしも一緒に座りながら、その音を静かに聞いていると、ざわざわしていた心が落ち着いてきた。


「あの、どうしてここに来ていたの?」


わたしが聞くと、祈くんは「もうすぐです」と言った。


「え……?」


それからすぐ、なにかが走ってくる音がして、そのまま橋の上をものすごい速度で流れていく。


「これ……電車?」
「正解です。この音が聞きたくて、ここに通っていたんです」


とても大きな音。
どうしてこの音が聞きたかったのか、そう聞く前に祈くんは後ろに手をついた。


「鉄道車掌になることが夢だったんです」
「それって、電車に乗る人?」
「ええ。子どもの頃から電車が好きだったので」


意外だ。勉強だけが大事だって思ってるのかと思ってた。


「ですが、僕は弁護士になることが決められています。もしくは医者か」
「そんな……どうして」
「父も、親戚も、そのどちらかなので。僕も自然とその道に進むよう言われているんです」


だからさっき読んでいた本も六法全書だったんだ。