ママがいるのは洋服屋さん。もしかすると、ここで新しい服をデザインするのかもしれない。
そこは、フリフリなドレスがたくさん並んでいるような場所。
そこの店員さんと話しているママは本当に嬉しそう。
それから、窓ガラスに映る自分が見えた。
髪も肩まで短い黒のウィッグ。
スカートじゃなくて、スラックス。
これは、ママが求めてるわたしなんかじゃない。


「こ、ここまでありがとう。そ、それじゃあ」


その場から逃げ出そうとしたとき、がしっと手首を掴まれた。


「とにかく逃げたいのなら、いい場所があります」


掴まれたまま、祈くんに連れられてわたしは走っていた。
どこに行くんだろう。
どうしてわたしが逃げたいなんてわかったんだろう。
人にぶつかりそうになりながらも、祈くんはわたしが無事かどうか何度も確認してくれた。
しばらく走っていると、人が少なくなって、川が見えてきた。
大きな橋の下にくると、ようやく手首を解放された。


「すみません、無理に走らせて」
「だ、だいじょうぶ」


わたしは息切れなのに、祈くんは疲れた顔なんてひとつもしていない。
でも、と思う。
高架下。薄暗くて、壁には落書きがたくさんされている。
目の前には川が流れていた。
なんというか、祈くんとはあまり似合わない場所だった。


「なにかあると、すぐここに来ていたんです」
「そ、そうなの?」