校舎がここまで広いとは思わなかったから、どこに行けばいいか分からなかったし……。
よし、この人に聞いて教えてもらおう。


「あの、教えてほしい場所があるんですけど」
「会場はそっちじゃねーよ」


……ん? 今、会場って言われたような?


「もう少しでオーディション終わるから急ぐぞ」
「オ、オーディション?」


なんの話だろう……!?
もしかして、この学園に入るためにはオーディションを受けないといけなかったの?
そんな話聞いてないけど……いや、そもそも何したらいいの!?


「こっちのほうが近道だから」


ぐいっと手首を掴まれたかと思うと、校舎とは正反対の植木鉢がたくさんあるような道へと連れて行かれる。


「ここ乗り越えた方が早い」


そう言って、私よりも高い塀をいとも簡単にひょいっと乗り越えてしまった。


「と、届きません……!」
「とりあえず、近くにある台にでも足かけろ」


と言われても、そんなタイミングよく台なんて──


「あ、ある……!」
「ほら時間ねーぞ」
「はっ! すみません、急ぎます……!」


あの人はこの台を使わなくても、さっと飛び越えちゃったのに。


『季衣、男の子みたいな遊びはしちゃダメよ?』


ふと、ママに言われていたことを思い出して、足が止まる。
木登りも、ドッチボールも、いつも見てるだけだった。