「死んじゃったからさ」


さらりと、海音くんが言った。


「ご、ごめんね……そんなこと聞くつもりなくて」
「えー? 全然いいよ、もう何年も前の話だし。病気だったんだけど、悲しい別れって感じじゃなかったんだよなあ」


悲しい別れじゃないって不思議。
そんなことあるんだ。


「そのとき、母さんと約束したんだよ。ずっと笑顔でいるって。オレが楽しそうにしてたら、天国にいる母さんも幸せになるって言ってたからな」


海音くんが笑ってたのってお母さんとの約束があったからなんだ。


「だから、楽しいことしてようって思うんだよ。気になったもんは全部やりてえ」
「あ……じゃあプールにスーパーボール入れたのも……?」


祈くんにものすごく怒られたって聞いた。
わたしだって、そんな人がいるなんて最初は信じられなかったけど。


「あんなのすっげえバカらしいだろ? そういうのが好きだったんだよ、母さん。ばかだなーって笑ってるし。あの日は母さんの命日だったからな」


命日……その日はまだ海音くんと出会ってなかった。
きっとわたしは、何気ない一日だと思って過ごしていたはず。


「……怒られるってわかっててもやりたかったの?」
「もちろん! 説教だけ受ければいいじゃん? んで、また楽しいことすればいいし」


からっとした顔で海音くんが笑って、それだけでこっちの気持ちも少し明るくなる。