ここまで、一度もレシピなんて見てなかったし、ホットケーキを焼くときだって絶妙に火の加減を見たりしてた。


「オレ、食うのも作るのも好きなんだよ」
「すごいなあ。わたしは苦手で……」


一度だけ、玉子焼きを作ったことあったけど、見事に焦げちゃったし。
しかもキレイに丸まらなくて、ママには「スクランブルエッグ作ったのね」なんて言われた。


「苦手でいいじゃん! オレがこれから教えるからさ」
「でもわたし、教えてもらってもうまくなれるか……」
「んー、それはさ」


そこまで言って海音くんは「よーし」と腕をまくった。
それから慣れた手つきでくるっと、ホットケーキをひっくり返す。
普通の倍以上はあるのに、そんなの気にしないみたいに両手でやってしまう。
ほどよく焼き目がついていて、すでに美味しそう!


「きれい……! 本当にひっくり返せちゃった」


無理かもなんて思っちゃってたのに。


「なあ、きいっち」


海音くんがわたしを見る。


「うまくなろうとしなくていいんだぜ!」


ふわっと、ホットケーキの匂いがする中で海音くんが笑う。


「大事なのは、やりたいことを全力でやること」
「やりたいことを……全力で」
「そ! もしそれで、ほかの奴らになんか言われても、オレはきいっちの味方だからさ」


きっと、海音くんは嘘をつく人じゃない。