「女みてーな枠はいなかったしな」


識くんも納得だとうなずいている。


「いや、そもそもわたしは女なので」
「ですが無理強いは……今、なんと?」


ハンコをまだ押していた祈くんは、わたしの言葉に手を止めた。


「えっと、男の子じゃなくて……Kis/metは女子禁制なんですよね……?」
「そんなルールを設けたことは一度もないですが……女」


よかった、ちゃんと言えた。
それならわたしは帰らせてもらえるよね。


「えー! うれし! 女の子とかオレずっと待ってたんだよ!」
「……え?」


海音くんがジャンプして喜びを表現してる。
口の中に飴玉が……あ、危ないのに。


「ボクも……季衣ちゃんなら女の子いいとおもう」
「宇宙くん……? え、いいって?」


あれ、おかしいな。
変な方向に話が進んでいるような?


「じゃあ、季衣は、Kis/met初の女子メンバーってことか」
「識くん……!? わ、わたし入るなんて……」
「理事長に確認を取ります」


それまで黙っていた祈くんが、スマホを取り出してだれかに電話をかける。


「今、資料で送りました。ええ、新規メンバーの件ですが……そうですか、わかりました」


たったそれだけを話して、すぐに電話は切られる。


「理事長も、涼風季衣を加入させることに異論はないそうだ」
「ど、どうして……!? わたし、女ですよ……?」
「──関係ねえよ」


識くんがひょいっと立ち上がって、わたしに近付く。


「俺たちが、季衣に入ってほしいって思ってんだから」
「そ、そんな……」
「識、近いですよ。ただ涼風季衣は加入を拒んでいるようですし、ここはひとつ、我々を知ってもらう時間を設けてみるのはいかがでしょうか」
「じ、時間……?」
「聞けば君は転校生なのでしょう。ならば俺たちのこともさほど知らないはず」
「そ、そうですね……?」
「しかし、知れば好きになる」
「ん?」


ものすごい自信満々に言われているのは気のせいかな。


「ということで」


どういうこと!?


「今日から日替わりで、俺たちが涼風季衣と一緒に過ごそうキャンペーンを実施することとします」