「ほんとーにほんとーっにごめんなさーい!」
「待てって!」
休み時間のたび、識くんはわたしのことを全速力で追いかけた。
わたしだって逃げたくて逃げてるわけじゃないのに、識くんがあまりにも怖い顔で走ってくるから、つい真逆の方に走るわけなんだけど……。
”今日は家に帰れると思うなよ”なんて脅される始末。
それでこっそり、逃げませんよ?みたいな態度で放課後は教室を出たんだけど。


「季衣! 話があるって言ってるだろ!」
「ぎゃああああ! ごめんなさい!」

逃げられないとは思っていても、放課後は全速力で学校を出た。
わたし、こんなに早く走れたんだ……。
いつもリレーではダントツで遅いのに。
振り返ったら、織くんはいなかった。
わたしが早すぎたから?
いや、そんなわけない。
男の子のほうが早いだろうし……ということは、あきらめてもらえたのかな。
そんなことを考えながら家に向かっていると、近所の山中さんがちょうど家から出てきたところだった。
品のいいおばさまみたいな人で、すごく優しい人。
いつも顔を合わせたら挨拶するんだけど……


「こんに──」


山中さんは、まるでわたしに気がついてないみたいに、すっと隣を通ってた。
あれ、聞こえなかった?
でも……


「って、この格好忘れてた!」


今のわたしは、どこからどう見てもいつものわたしじゃない!
慌てて引き返して近くの公園に向かう。
それからリュックに隠しておいた制服のスカートに着替えて、ウィッグも外す。


「ふうー、頭スッキリする」


元の髪は背中まで伸びてて長いんだけど、全部ウィッグにしまってた。
ママの遺伝なのか、昔から栗色っぽい色なんだ。
ウィッグを黒にしたのは、真っ黒の髪に憧れてたこともあるんだけど……


「あ、もうそろそろママが帰ってくる。急がないと」


心配性のママだから、今日は仕事を早く切り上げて帰ってくるはず。
それから絶対わたしに聞くんだ──