純粋で真っ直ぐに尽くす傾向を利用し、言葉巧みに引き込む。優しい言葉をかけたら、面白いくらい予想通りに事が進み、伏見は笑いを堪えるのに必死だった。


 そして今、彼方はそんな彼の思惑通りに伏見の掌で転がされているのだった。

 月明かりが闇を照らす中、煌びやかな細工が施される扉を前にして立ち止まる。両脇にいるこのパーティー会場のスタッフに招待状を見せれば、にこやかに挨拶され通される。

 フォーマルな場に相応しいダークスーツに身を包み臙脂色のネクタイを締める伏見。そんな彼の横で彼の見立てたシャンパンゴールドのワンピースに身を包み、パールのネックレスとピアスを装備した彼方。とどめにシャンパンゴールドのヒールのある靴で隣の伏見と同じ背丈になる。

 賑やかなパーティー会場につき、伏見は隣の彼方に目線を合わせる。

「ーーほな、手筈通りに」

「は、はい!」

 彼方は伏見の横で微笑む役を任されていた。どんな話がきても、何をされても、相手の機嫌を損なわないように微笑み、「そうですね」とか「それは素晴らしいですね」と相槌を打つ。


 今のところミスをしない彼方に伏見は感心しつつ、この後は手強いやろなぁと憐れむような視線を投げかけた。

「やあ!伏見くんじゃないか!待っていたよ」

「これはこれは、会長。いつもお世話になっとります」

 そんな時にかけられる声。伏見はキタと心中でニヤリと笑う。若い女性が大好きな会長によく見えるように伏見は彼方を一歩前に出させて、言葉を交わす。

「今日はきてくれてありがとう。きみとの話はいつも楽しいからうれしいよ。うちの部下にも見習わせたい」

「いえいえ、僕なんてまだまだひよっこです」

「そんな謙遜して。伏見くんいくつだったっけ?」

「27になります」