しかし、この日は違った。彼方は伏見の言葉を受け取ると、真っ直ぐに見つめる。その瞳に伏見が吸い込まれそうやなと思っていると、彼方は「私も……」と小さな声で、想いを紡いだ。

「嬉しいです、すごく」

 それは突然だった。いつものように好きだと伝えただけ。返事などくるはずもない。それなのに、返ってきた言葉。伏見は目を見開く。

「かな、た?」

「こんなに、想われたの……初めてです。伏見さんになら、もう一度……裏切られてもいいから、私の全てをかけたいって思います」

 彼方の心はもう前から、いやきっと最初から変わらない。それは彼方が自分で言っていた通り。彼方の伏見への想いは変わらない。ずっと敬う相手で、真っ直ぐに尽くしたい相手。

「いつも、ずっと……私を想い続けてくれて、ありがとうございます」


 彼方はとびっきりの笑顔を見せた。その瞬間、伏見はたまらないという感じで、泣きそうな顔で微笑む。

「彼方、好き。めっちゃ好きやで。きみは絶対僕のこと裏切らん。せやから、彼方も、僕のこと……ほんまは好きやんな?」

 執着も溺愛も全て混ぜて、好きと伝える。それが伏見であり、彼方が尽くしたいと思う相手。そんな伏見に見透かされ、彼方は降参とばかりに頷く。

「はい、大好きです」

 彼方からの愛の返事に伏見はとうとう涙を流した。

「かな、た……ほんまに、好きや……」

 伏見は泣きながら彼方を抱き締めると、その温もりを確かめていた。そんな伏見に彼方もゆっくりと手を伸ばして応える。そして抱きしめ返すと、安心させるように優しく声をかけた。

「私はここにいます」

「うん……」

「あなたが、私を必要としてくれるから……ここにいられるんです」

 彼方の言葉に、伏見は抱きしめる腕に力を込める。ただ、愛しいと想いを込めてーー。