ただ“好き”だと毎日言うだけで、伏見が何も求めてこないことに彼方は安堵する。しかし、その想いが日に日に増していくのも感じていた。それはまるで毒のように、じわじわと侵食するようにーー……

 

 ある時、彼方は何度目になるかわからない伏見からの好きの言葉に質問をする。

「伏見さんは、本当にただ私を好きでいてくれてるんですか?」

「せやで。好きや。ただ、そこにおってくれるだけでええ。……ちゃうな。彼方がどこへいようとも、僕の想いは変わらん」


 伏見は自分が傷ついてもいいから、彼方が幸せならという想いが生まれていた。それは執着していた時にはありえなかった感情で、今なら彼方が言っていた執着と愛は別だというのが理解できた。

「真っ直ぐに尽くす相手が他の誰でもええよ?彼方が幸せなら、かまへんよ。ただ……僕が好きって言うのは、許してな?彼方に伝えるだけでええねん。その心に、僕の想いが届くだけでええ。それだけで……満足や」

「伏見さん……」

「そんな顔せんとって。彼方、好きやで」

 伏見は穏やかな笑みを浮かべていた。


 伏見は本当に変わった。裏切った過去を清算するように、ただひたすらに彼方に好きと伝える。信じてもらえるように、と。たとえ信じられなくても当然だというように、無理強いはせず。想いを紡ぐ。

「彼方、好き」

「彼方、好きやで」

「彼方がめっちゃ好きや」

 彼方へ届けるように、愛の言葉を囁き続ける。

 伏見の言葉は真っ直ぐで、どこまでも純粋だった。ただ真っ直ぐに愛を伝えるその姿は、きっと誰が見ても誠実に映るだろう。

「好きやで、彼方」

 そんな伏見の純粋な想いが、ゆっくりと彼方の心へ浸透していく。



***

「彼方、好きや」

 それはいつものやり取りで、彼方の返しなど求めていない伏見の……ただルーティンとなった愛の言葉の贈り物。