それから伏見は吹っ切れたように彼方の姿を監視しなくなった。

「おはようさん、彼方。今日も好きや」

 朝の挨拶と共に紡がれる愛の言葉。彼方は驚きつつも「おはようございます」と返す。それに対して伏見は微笑む。それ以上のことはない。


「伏見さん先方からの荷物なんですが……」

「ああ、あれ重いから僕が行くわ」

「でも、伏見さんのお仕事に支障が」

「そない短い時間じゃ変わらんて。大丈夫や、任せとき」

 ふわりと伏見は穏やかな笑みを浮かべる。今までなら「一緒に行こうや」とかなんとか言って彼方をつけまわしていたのに、今では見る影もない。

「ほい、今日もお疲れさん。これでも飲んで残りも気張りや」

「ありがとうございます!あの、お金を」

「かまへんよ。ただ僕があげたかっただけやねん。ほな、仕事戻るわ」

 それだけ伝えて自分のデスクに戻る伏見。彼方と離れたくないといって、やたらとそばに寄ってくることも、ない。

「ああ、もうこないな時間や。早よ帰り。残りは僕がやっとくわ」

「それだと伏見さんも遅くなってしまいますよ」

「大丈夫や。こんなんちゃっちゃっと終わらせとくわ。暗なると危ないから、きみは先に帰り、な?あ、なんならタクシー呼ぼか?」

「いえ!そこまでは、まだ時間的に大丈夫です」

「さよか。ほんなら、また明日な」

 押しかけてどこか行こうとも誘わず、ただ彼方を想う伏見は、しっかりと約束を守っていた。

「ああ、せや。彼方。今日も好きやで」

「っ……お疲れ様です。お先に失礼します」

「ん、気いつけてな」

 伏見の変わりように彼方は動揺しつつも、この日常を受け入れていた。