伏見は切羽詰まったような声でそう言うと、再び彼方に口付けた。今度は優しく触れるだけのキスだ。それでも彼方にとっては十分な刺激になり体がピクッと反応する。伏見はその反応を見て満足そうに微笑むと、もう一度深く口づけたのだった。




 その日以来、彼方に対する伏見の束縛が酷くなった。会社内では常に一緒に行動するようになり、休憩時間には彼方を捕まえてどこかへ連れていく。
 ただ、そばに置いておきたいだけという伏見のその執着が彼方には恐ろしかった。必要とされるなら、喜びを感じていたはずなのに。一度裏切られたという感情が、彼方の心にブレーキをかける。伏見がどれだけ彼方を求めても、届かなければそれは意味がない。

 だから、伏見のその重い愛を彼方は拒む。受け入れてしまえば自分が自分でなくなるような気がしたから。そして今日もまた伏見からの熱烈な誘いを受けるが、断り続ける。

 そんな日々が続いたある日のことだ。いつものように伏見が誘ってくる。彼方はそれを流れ作業のようにいつもと同じ言葉で断った。

「……なんで?」

「伏見さん?」

「なぁ、なにがあかんの?」

 この日の伏見は様子が違った。いつもとは違う低い声で彼方に問う。

「なにがって……」

 戸惑いながらも答えることができない彼方に伏見は舌打ちをした。そして強引に彼方の腕を引き寄せると、そのまま執務室のソファに押し倒す。そしてその上に跨がった。

「ちょ……伏見さん!?」

 慌てる彼方を無視し、伏見はそのまま覆い被さるようにして顔を近付ける。そして耳元で囁いた。

「僕のこと嫌いになったんか?」

 その声は切羽詰まっていてどこか苦しそうだった。そんな声を聞いた彼方は目を見開くと、悲しげに顔を歪める。その表情に今度は伏見が困惑した。

「伏見さん、あなたのは……執着です」