彼方は泣きそうな顔を必死に隠そうとして、無理やり笑顔を作ろうと口角をあげる。

 男性はそんな彼方を横目でみて、手を差しのべる。

「まあ、そんな顔せんといてや」

「……すみません」

「謝らんでええよ、ちょっと甘いもんでもどや?」

 そんな誘いに彼方はコクリと頷くのだった。


***

「はい、どうぞ」

 男性に連れられてきたカフェのテラス席に座って待つこと数分。彼方の目の前に置かれたのはクリームソーダだった。綺麗なエメラルドグリーンがグラスの中で輝いている。

「あの、お支払い」

「ええよ、僕の奢りやから」

「でも……」

 いくら聞いてもお金は受け取ってくれない男性に彼方は困惑する。しかし男性の笑顔を見ていると何も言えなくなる。そんな彼方を知ってか知らずか、彼はカフェオレを飲みながら話を聞く。男性の雰囲気がそうさせるのか、彼方はこれまでの経緯を素直に話した。

「まあ、あれやね……その先輩は卑怯な奴やね」

「……はい?」

「やって、自分のミスを部下のせいにして自分は知らん顔なんやろ?そんなやつ、卑怯な奴や。もっと言うとクズやね」

 男性はズバッと述べる。あまりにハッキリ言うものだから彼方は目を丸くしてしまう。

「まあ、でもそれはその私も手伝っていたことですし……私気にしてないんです」

「せやったとしてもや、上司が自分のミスを部下に擦り付けるなんて最低やん?」

「……はい」

「それに、きみやって悪いところがあったんとちゃうの?」

 男性の言葉に彼方は俯く。確かに彼方も悪かったかもしれない。好かれたくて、認めて欲しくて、何でもホイホイ請け負っていた。第三者に冷静に諭されると、余計に落ち込む。

 そんな彼方を見て、男性は「でも……」と静かに口を開いた。

「そんなに真っ直ぐに尽くせるなんて、すごいな」

「えっ?」