その目には強い意志があった。伏見はそんな彼方の目に魅せられる。しかし同時に苛立った。どうしてそこまで拒絶するのかと、腹立たしさすら感じた。自分の蒔いた種だとわかっていても、どうにかしてこの手に堕ちさせてやりたいと思った。

「僕は、きみが欲しい」

 伏見は彼方の手を取り、その手に口づけを落とす。そして真っ直ぐに見つめると、彼方の頬に手を伸ばした。

「……っ!」

「裏切らへんよな?」

 そう言って微笑む伏見に彼方は戸惑ったまま動けずにいた。そんな時だ。突然背後から声がかかる。

「副社長!今お時間よろしいですか?」

 その声に彼方は慌てて離れた。専務取締役の執務室の扉の外にいる社員に中の様子はわからない。しかし、恥ずかしさで彼方は逃げるように部屋から出ていく。

 その様子に社員は驚きつつも中に入る。目に入った伏見の愉しそうな顔をみて更に不思議そうにした。

「何かあったんですか?」

「いや?何もあらへんよ」

 伏見はその問いに笑顔で返した。しかし、その瞳の奥が笑っていないことに社員は気づかずに去っていく。残された伏見は再び仕事を再開させた。