突然の言葉に伏見は固まる。そんな反応を見て彼方は慌てて首を横に振った。

「あの!変な意味はなくてですね。私より優秀な秘書の方もいらっしゃるのに、どうして私によくしてくださるのか不思議で……」

「僕がきみにかまうのは迷惑なんか?」

 伏見は彼方の言葉を遮って尋ねる。その口調は少し苛立った雰囲気を含んでいた。
 しかし、彼方はその反応の意味がよくわからず戸惑うばかりで。伏見は再びため息を吐いた。そしてゆっくりと口を開くと、静かに語り始める。

「僕はきみがいいんや」

 伏見の言葉に彼方の顔が赤く染まった。そんな反応を見せられて嬉しくないはずがない。だからなのか、自然と口から言葉が溢れてくる。


「嫌がっても僕は逃さへん。せやから覚悟しとき」

 伏見は彼方の頬に手を添えると、そのまま首筋まで滑らせる。そして優しく撫でると耳元で囁いた。

「僕がずっと欲したる」

 それはまるで誓いのような言葉だった。その言葉を受けた瞬間、彼方の瞳の奥が揺れる。それは焦りだった。

「伏見さん、離れて……ください」

 彼方はドキドキしていた。しかし、それは好意からではない。彼方が伏見を好きになるはずがなかった。なぜなら、彼方は伏見を信じて、一度裏切られたから。あんなに、寄り添って、優しい言葉をかけてくれて、手を差し伸べてくれた姿は全て偽りだったのだと思い知らされたから。

「伏見さんのことは、上司として信頼はしてます。でも……」

 言葉に詰まる。彼方は恐ろしかった。もう一度その手をとって、心まで許してしまったら、また伏見が離れていくのではないかと。また裏切られたら今度こそ……立ち直れない。だから、彼方は拒んだ。

「……仕事上では伏見さんのために何でもします。でも、それだけです」