そう言って笑う社長に伏見は眉を寄せるも、話さないわけにはいかなかった。この男は一度絡むとしつこい。だから正直に話す方が早いと判断した。




「って、話なんですが……何笑っとるんです?」

「いや……おまえ……ふふ……っ」

 社長は伏見の話を聞くと、堪えきれずに笑い出した。そんな姿に伏見は不機嫌になり目を細めるも、社長は気にした様子もなく笑ったままだ。ひとしきり笑って満足したのか、ようやく落ち着いた社長が口を開く。

「いやな?おまえさ、本当に無自覚?」

「……何がですか?」

 伏見は惚けて首を傾げると、社長はため息を吐いて答えた。

「おまえ彼方のこと好きだろ?」

「……」

「否定しないってことは当たりか」

「ちゃいます。駒として有能やから気に入っとるだけです」

「それを好きって言うんだろ?」

 社長は伏見の言葉に呆れながら言う。しかし伏見は頑なに認めようとしない。

「ちゃいます」

「じゃあ、彼方が他の男と結婚したらどう思うよ?」

「……別に何も思いませんわ」

 伏見は素っ気なく答える。そんな様子に社長はさらにため息を吐いた。そして、何かを閃くとニヤニヤしながら伏見に鎌をかける。

「じゃあ、我が社の副社長がそんなに絶賛する有能な彼方という女性を俺の補佐につけたいんだが、構わないよな?」

「……っ!!」

 伏見は社長の言葉に思わず息を呑んだ。それは図星をつかれたからだと、自分でもわかっていた。彼方が自分以外の男の補佐について、動き回る姿を想像する。その男に従順で常に真っ直ぐに尽くして、健気な笑顔を振りまく。それが、伏見には耐えられなかった。


「あかん」

「んー?」

「あの子は僕のや。誰にも渡さへん」

 伏見は本気で断る。立場も敬語も忘れて。そんな伏見に社長は大笑いした。

「おまえ、めちゃくちゃ惚れてんじゃん!」