あれから、数日経った。彼方は自宅のソファの上でぼんやりとしながら、ただ時間がすぎるのを待っていた。

 あの日報告しようと思っていた伏見に任されていた仕事は後でメールで伝えておいた。それに対しては短く返事がきたのみで、それ以降はとくに音沙汰ない。

 それもそうだ、クビにされたのだから。彼方は力なく笑って、伏見との今までを思い出す。

 ついて行きたかった、ずっと。だって伏見は恩人なのだから。なんの取り柄もない自分を、必要としてくれた人だったから。
 
 あの日の伏見の顔が頭に浮かぶ。平気で部下を捨て駒のように扱う言動。信じてきた彼の姿は偽りだった。

 彼方は伏見という人間がわからなくなっていた。信じていた分、ショックが大きい。きっとこれからも信じていいと思っていたから、余計にだ。
 あんなによくしてくれたのにと、彼方の忠誠が嫌悪に変わる。

「……お腹すいた、な」

 何も頭が回らなくても空腹になる。彼方はそう呟くと重い腰を上げた。そして、久々に外に出て買い物に出かけた。


 もう夜も遅い時間。そこらは夜の街特有のキャッチがおり、ぼんやりと歩いていた彼方に声をかける。

「ねえ、お姉さん。いい店があるんだけど」

「……私?」

「そうそう、今人手足りなくて困っててさ。すぐそこだからさ、ちょっと話だけでもどう?」

 そう言ってキャッチの男は彼方の腕を掴むと強引に連れていこうとする。

 行くあてもなく彷徨った結果が、これかと彼方は自嘲する。必要とされるなら、もうどこでもいいかと、なる。
 彼方は、そのまま男について行こうとーー。

「ーーおい」

 そんな声と共に、彼方の腕を掴む男の手を掴み上げる。男は驚いて振り返る。そこには、鋭い眼光で睨みつける伏見の姿があった。

「……っ!」

「人のもんになにしてんねん」