「彼方、これやっといてや。至急」

「はい!」

「ああ、こっちもあったわ。彼方、これ頼むわ」

「はい!」

「あ、せや。この書類、隣の部屋におる社長に渡しといて」

「はい!」

 落ち着く暇もなく次々に仕事を投げられる彼方。そんな伏見の無茶振りに嫌な顔一つ見せずに笑顔で対応する。そんな彼方に伏見は内心ため息を吐く。

 ーーあかんな。これはあかんで……。

 最初は自分の駒として利用できればいいと軽い気持ちだった。しかし、今はそんな考えに揺らぎが生じる。彼方への情が確かにあった。自分のために健気にも尽くすその姿に、伏見は気を抜いていると目頭が熱くなりそうだった。

 このままだと、やりにくい。そう判断して伏見は彼方に休憩をいれることにした。

「ーー彼方、ちょっとこっちき」

「はい?」

 伏見はソファに座って自分の横を叩くと、彼方が素直に隣に座る。その素直さに少し呆れつつ、伏見は彼方が持っていた書類を取り上げた。そしてそのまま彼女の体を引き寄せて、膝上に座らせる。
 いきなりのことに驚く彼方に伏見は耳元で囁く。

「ええか?僕は今仕事中やねん。せやから、邪魔せんといてな。ええ子の彼方なら、できるよな?」

 そう言って伏見は彼方の腰に腕を回して逃げられないようホールドする。
伏見の仕事中、それを邪魔してしまってはいけないと彼方は大人しく従う。そんな素直な彼方に伏見はまたしても内心舌打ちをする。そしてそのまま彼女がどこまで耐えられるのか試してみることにした。

「ーー彼方、これ」

 伏見はそう言うと、自分のネクタイを緩めてシャツのボタンを開ける。そして首筋をさらけ出した。

「っ!」