人生山ありゃ谷あるという言葉がある。だからこそ、どんなにどん底でもがむしゃらに頑張ってこれていた。
 それなのに、だ。

 田中彼方(かなた)24歳。ただいま人生崖っぷち突入。


 そんなことをオフィスが立ち並ぶビル街の中心でアスファルトに膝をつきながら、彼方は思っていた。

 彼方は社会人の女性だった。過去形なのはつい先ほど無職になったからである。新卒で入社した会社。仕事と向き合って、ひたすら頑張っていた。

 彼方は女性の平均よりも高い167cmという身長で、髪の毛はオレンジベースの茶髪のベリーショート。中肉中背だが、その高い身長から社内で走り回れば嫌でも目立つ存在だった。加えて割と童顔なこともあり、幼さが残る風貌となんでも指示をきく彼方を可愛いという意味も含めて忠犬と比喩する者もいた。

 そんな彼方が仕事を頑張っていたのは、ある先輩に憧れていたからである。
 その先輩に褒めてもらいたくて、認めてもらいたくて。頼まれた仕事はどんな雑用でも笑顔で受けた。……それなのに、ある時、その先輩のミスを彼方のせいにされた。

 その責任をとって自主退職に追い込まれ、職なしとなる。
 急な事でデスクの私物やらをダンボールに抱えて都内を歩くハメになり、何故こんなことにとグルグルと思考が回って、注意力散漫になり案の定転んだ。

「いててて……もうっ、なんなの……」

 転んでしまい荷物をぶちまけるも先輩のことがショックで、なかなか立ち上がれない彼方。通る人は興味もなさげに素通りする。まるで道端の石ころになった気分だと彼方は自嘲した。



 「えらいぶちまけたなぁ、大丈夫?」