*

「エンがさらわれただと!!」

 ウソだろう……。

 先ほど屋敷でまた会おうと約束したばかりだ。はにかんだ顔のエンの姿が、まだ目にこびりついているというのに。

 エン……。

 レオは怒りを抑えきれずに、グルル……と獣の唸り声を漏らした。

「どこのどいつだ!エンをさらったのは!」

 レオは騎士団長を呼び出すと指示を出す。 

「すぐにエンの情報を集めろ。エンの命が最優先だ。犯人の命は奪ってもかまわない。必ず無事にエンを俺の所まで連れ戻せ」

「かしこまりました」

 エン、無事でいてくれ。

 レオは奥歯を噛みしめ、グルル……声を漏らす。

 エンに何かあったら犯人を許さない。

 俺は自分の手の中にある黒曜石のペンダントを握り絞めた。これはエンに渡したペンダントと対になっている。

 黒はエンの色だ。

 ガンスに頼んで、ペンダント同士が離れると引き合うように作らせた。しかしこれは試作品で場所を特定するまでに時間が掛かる。これの発動まで一時間以上……。

 くそっ!

 待っていられるか!

 俺が城を飛び出そうとするのを、騎士団長に止められた。

「殿下なりません。この件に誰が関わっているか分かりません。もし他国の者が関わっているようのなら、国際問題となります。エン様を巡って、戦争にもなり得るのです。下手に動くのは得策とは言えません。堪えて下さい」

 そう言われても怒りでおかしくなりそうだ。

 グルルル……俺の喉から怒りの音が鳴り止まない。

「くそっ!」

 騎士団長に当たり散らしても仕方ないことだと分かっているが、冷静ではいられない。

 エン……。

 こんなことならエンを俺のものにしておけば良かった。番になっていれば、番の場所を特定することは簡単だ。いつだって近くに感じることが出来る。獣人の番は特別だ。体を(つな)げた番は、思いが強ければ強いほど、相手の場所や思いが手に取るように分かるという。逆に相手への思いが弱くなると、何も感じなくなるという。

 はぁーー。

 エン……どこにいるんだ。

 無事でいてくれ。