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 馬車に揺られながら、私は屋敷に戻る前に街に寄り、屋敷の皆にお土産を買うことにした。

 何が良いだろう?

 お菓子が無難かな?

 美味しいお茶と合わせて買っていこうかな?

 王都にしか無い、珍しい物とかあるかな?

 ティエナを連れ、エンは王都の街を歩いていた。


 その時。


 街並みを吹き抜ける強い風が吹き、エンの髪が後方へと流れた。

 しまった……そう思ったときにはもう遅かった。

 すぐにサイドの髪を元にもどし両耳を覆うが、回りにいる人々の視線はエンの耳に注がれていた。ライオンの耳のカチューシャはしていたが、露わになった耳を隠したところで今更で「おい、あれを見たか?」と、ざわめきが広がっていく。

 固まったまま動けずにいた私の手をティエナが引き走り出した。

 ヒソヒソと話す声があちらこちらから聞こえてくる。

 怖い……何を言われているの?

 人々の声と視線から逃れるため、人気の無い道を探しだし逃げ込んだ。

 久々の全力疾走に息が上がる。

「エン様、申し訳ございません。私がもう少し注意していれば……」

「ティエナのせいではないわ。私の不注意のせいよ。早く馬車に戻りましょう」

 そう言ったエンの肩を誰かがつかんだ。

「おい、あんた。その耳を良く見せろ」

 右肩を掴まれた状態で振り向かされ、揺れた髪の隙間から耳が露わになる。

「マジかよ!毛が生えていない。本当に人間なのか?」

「マジで?!こいつ売り飛ばしたら、金になるんじゃね?」

 ニヤリと笑い合う二人の男の姿に、背筋が凍る。

 この人達は何を言っているの?

 売り飛ばす?

 私を?

 エンは掴まれたままの肩を振り払った。すると男がエンの手を掴もうとしたが、それをティエナが阻止するべく叩き落とす。

「汚い手でエン様に触れるな!」

「ティエナ!」

「エン様はこちらへ」

 ティエナに促され、エンが駆け出そうとしたとき、口元を何かで覆われた。それはティエナも一緒だった。

「エン様……んぐっ……」

 目が霞、意識が遠のいていく中で、ティエナがこちらに手を伸ばしているのが見える。意識が飛ばぬよう必死に瞼を固定しようとするが、自分の意思に反してゆっくりと瞼が落ちてくる。

「レオ……」

 私は無意識に空色の瞳をしたあの人の名前を呼んでいた。