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「レオ、私は一足先に屋敷に戻りますね」

 私はそう言ってから、馬車に乗り込んだ。フと外を見ると、レオが泣き出しそうな顔でこちらを見ていた。

「エン様、窓を開けましょうか?」

 ティエナにそう声をかけられ、馬車の窓を開けてもらう。するとしょんぼりとしたままのレオが近づいてきた。

 そんな顔をしなくても、レオの仕事が終われば屋敷でまたすぐに会えるのに。

「レオ、お仕事頑張って下さい。屋敷でお帰りをお待ちしていますから」

 エンはそっと手を伸ばし、レオの頭を撫でながら笑うと、丸い耳がぴょこんと上を向いた。

「ああ、仕事を早く終わりにして屋敷に行くから待っていてくれ。それからこれをエンに持っていてもらいたい」

 レオから手渡されたのは、ネックレスだった。それは金の縁取りに、青色の美しい宝石が付いていた。この色は目の前にいる人の色だ。

 澄み渡る空色。

「きれい……レオの瞳の色ね」

 空色の石を見つめながらボソリと呟くと、レオが頬を染めた。

「俺の色をお前に持っていて欲しい」

 その言葉に、トクンッと胸の奥で音がした。封印したはずの思いがわき上がってきてしまう。高鳴る心臓を抑えようとするが、止めることは出来ない。

 この人はもう私の中では特別で、この人にとっても自分が特別でありたい。

 そんなおこがましい思いが湧き上がる。

「レオ……」

 エンはレオにもらったネックレスを付けると、レオの顔を見つめた。

「レオが屋敷に帰ってきたら、話があるのですが良いですか?」

「ん?ああ、分かった」

 エンはレオにしばしの別れを告げると、馬車が走り出した。

 レオ……。

 首にかけられたネックレスを触りながら、空色の美しい瞳を思い出す。それだけで胸が高鳴っていく。

 これは身分違いの恋だ。

 告げてはならないと思っていた。

 でも……。

 あふれ出ようとする思いを、留めておくことはもう出来そうにない。

 だって私は……。

 私はレオが好きだ。

 次に会ったときに、この思いを……私の気持ちを伝えようと心に決めた。