「エン、触りたいなら俺がいるだろう?」
「殿下には触っても良いのですか?」
「エンになら触られてもいい」
お互いに見つめ合いながら話をしていると、いつの間にか獣から獣人の姿に戻ったイーニアス殿下がつまらなそうに呟いた。
「惜しかったなー。もう少しで落とせそうだったのに。エンは獣の姿に弱いと聞いていたから落とせると思ったんだけどな」
「イーニアス、それでわざとその姿で出来たのか?エンはやらないと、ハッキリと言っただろうが!」
「いやなに、お前がそこまで執着する女性、お兄ちゃんとしては気になるだろう?」
「ふざけるな!エンを口説こうとしていたくせに」
口説く?
イーニアス殿下はそんな事していないと思うけど?
「殿下、私はイーニアス殿下に口説かれてなどいませんよ?」
私がそう答えると、殿下が苛立った声を上げた。
「はぁ?いや、口説かれていただろう」
「こっちが『はぁ?』ですよ。だから口説かれていませんて。ね、イーニアス殿下」
イーニアス殿下に同意を求めると、何だかばつの悪そうな顔をして顔を逸らされた。
えっ……何その反応?
まさか、本当に口説かれていたの?
口を開いたまま驚いている私を見た殿下が、溜め息交じりに話し出した。
「俺は言ったよな。獣人は家族や婚約者以外に体、特に耳や尻尾は触らせないと」
「言っていたわね」
「こいつはエンの耳に触れようとしたり、自分の体に触れさせようとしたり、自分の体をエンにこすり付けて匂いを付けた」
そ……そういえば……。
「あれって、口説かれていたんですか?!」
「「はぁーー」」っと二人の殿下の口から、盛大な溜め息が出された。
「やだ、二人してそんな溜め息付かないで下さいよ」
額に手を当て、上を向くレオンポルド殿下を見たイーニアス殿下は、哀れむような目でレオンポルド殿下を見たいた。
「何、何?どうしたの?」
慌てる私を、殿下二人がジト目で見てくる。
「お願いだから二人して、そんな目で見ないでーーーー!!」