「ちょっと、殿下!なんで舐めているんですか?!」

「ん?だって良い匂いがするから」

「だからって、舐めないで下さい……ひゃっ……」

「くくくっ……。どうした?」

「だっ……だから舐めないでって……んっ……やっ……」

 殿下の手が私の腰に回され、いつの間にか膝の上に座らされていた。いつもとは逆転した状態だ。

「エン……」

 私の名を呼ぶ、甘く、囁く声が殿下の口から漏れる。

「あんっ……やっ……んっ……」

「やばいな、エン……その声、腰にくる」

「え?ナニ?……んっ……」

「エン、こっち向いて、口開けて」

 エンは殿下に言われるがまま、口を開けると、殿下の舌が入って来た。

「んっ……っ……」

 腔内を動く舌にエンが驚き、殿下の肩を叩きながら離して欲しいと訴えるが、殿下に唇を離す気は無いようだった。

「ふぁっ……んっ……んっ……」

 殿下は私の口から甘い声が漏れ出るのを楽しんでいる様子で、唇を塞いだまま舌を動かし続けている。

 もう、いい加減にしてと、私が更に殿下の肩をポコポコと叩くと、さすがにやり過ぎたと気づいた殿下が唇を離した。やっと唇を離してくれたことに安堵したエンだが、その頃にはエンの瞳はウルウルと潤み、トロンとした顔になっていた。

「エン……その顔は、誘っているのか?」

「さっ……誘ってないです!」

「くくくっ……、そうか?……チュッ」

 最後にもう一度、殿下が唇を落とす。

「もう、殿下!」

「可愛くてついな」

「かっ……可愛い?」

「ん?エンは可愛いだろ?」

「そんなことを言われたのは子供の頃だけです。大人になってからは言われたこと無いです」

 私と殿下の間に沈黙が流れる。そこから先に口を開いたのは殿下だった。

「まさか、そんなわけが無いだろう。こんなに愛らしい生き物を見たことが無いぞ」

「いえ、それはこっちの台詞ですよ」

「「…………」」

 二人の間にまた沈黙が流れた。

 二人は目を丸くして見つめ合い、なんだかそれがおかしくて、二人同時にプッと吹き出して笑い合った。
 
 外は風が吹き荒れ、森の木々が揺れていたが、屋敷内は穏やかな時間が流れていた。