数日前は森を彷徨っていたというのに、今は毎日のんびりと過ごさせてもらっている。先王様もあれから暴れることは無く、穏やかに暮らしている。日々魔王だと言ってふんぞり返っているが、可愛らしいおじいちゃんだ。

「さてと、午後は何をしようかしら」

 そう独りごちて立ち上がると、そこに殿下がやって来た。

「エン、少し良いか?」

 私は殿下に向かってカーテシーで迎え入れた。

「殿下におかれましては……」

「エン、そういうのは人がいるときで良い」

 私はここに来てからこの世界の作法を習い始めた。午前は全て作法の時間としていて今、私が殿下にした挨拶やカーテシーが習ったばかりのこちらの挨拶だ。ホントは普段からこうして練習した方が良いのでは無いか?と思われるが、殿下が良いというのだから今は良いのかな。

 私は殿下に椅子に座るよう促し、ティエナにお茶をお願いする。

「失礼する」

 殿下が優雅に椅子に座ったのを見て、自分も椅子に座った。殿下が椅子に腰を下ろすと、フーッと溜め息を付いた。

 何だか疲れているようだ。

「殿下、随分と疲れている様子ですね?何かありましたか?」

「ああ……認知症について医師と話し合いをし、獣人としての尊厳について話し合ったんだ。そこまでは良かった。医師達は認知症についてもっと調べると言ってくれたんだが、貴族達が聞く耳を持たないと言った感じなんだ」

 もう一度殿下が大きく溜め息を付いた。