「お前、先王に何をした?」

「えっと……別にたいしたことはしていないです」

「しかし先王がすぐに言うことを聞いただろう?暴れることも無く、あんな風に言うことを聞くなんて……禁忌とされている魅了の力でも使ったのか?」

「魅了?!そんなわけが無いでしょう。ただ話を聞いて、話を合わせただけですよ。先王様は認知症だと思われます。認知機能が低下して何故か自分が魔王だと思い込んでいるんです。それを違うと押さえつけることはダメな行為なんですよ。話を聞いて否定しないことが大切です。体を押さえることも逆効果です。落ち着くどころか余計に暴れてしまいますよ」

「認知症とは何だ?」

「えっ……認知症ですか?」

 認知症は認知症なんだけど……えっと……具体的に説明するにはどうすれば良いんだろう。日本では認知症と言えばすぐに察してくれるけど、ここではそれが通じない。

「えっと……認知症は、認知機能が低下する物で、脳の神経細胞が減少して……えっと……ざっくり言うと、記憶力が低下する病気です。記憶力の低下によって日常生活にも支障をきたしてしまうそんな病気なんです」

「それが先ほどの先王の症状と同じと言うことか?」

「おそらく」

「お前はその認知症の対処法を知っていると言うことか?」

「ええ……一応そういう仕事をしていましたから」

 殿下は希望を見いだして喜んでいるのか、キラキラとした瞳でこちらを見ると、私の両手を握り絞めてきた。

「お前……エンとか言ったか?俺に協力してくれないか?」

「協力ですか?」

「ああ……エンにしか頼めない」

 こうして園田縁は異世界のゴタゴタに巻き込まれていくのだった。