「なるほど……」

 これは認知症で間違いなさそうだ。

 私は暴れながら自分は魔王だと言っている先王の元までゆっくりと歩いて行った。先王は騎士達に押さえつけられながら、体を振り乱し暴れている。

「お前、危ないから後ろに下がれ」

「殿下、ここは私に任せて下さい」

 縁は先王の前に出ると、目の前で膝を付いた。

「魔王様、お久しぶりでございます。エンです。覚えていらっしゃいますか?」

 (ゆかり)はあえて、自分をエンと名乗った。ゆかりと言う発音よりエンの方が単純に言いやすいと思ったからだ。施設の利用者さん達もそうだったし。

「そなたは……?そうか、久しぶりだな?息災であったか?」

「はい。魔王様もお元気そうで何よりです。積もる話もありますし、お茶でもしながらお話をしませんか?」

「おお、そうだな。誰か茶の準備を!」

 私と先王様の様子を見ていた人々は唖然としていた。自分を魔王だと言っている時の先王が、穏やかに話をすることは無かったからだ。メイド服を着た女性が慌てた様子で椅子とテーブルを用意し、お茶の準備をあっという間にしてくれた。

 私と先王様は椅子に座り、お茶に手を伸ばす。

 良い香りだ。エンはお茶を口に含む。

 はぁーー。

 美味しい。