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 屋敷の中に入った縁は唖然とした。屋敷の中は荒れ放題で、壁は所々傷や穴が空いている。床も傷だらけで、ガラスが散らばっていた。

「なっ……どうしたんですか?これ?」

 殿下に視線を向けると、悔しそうに奥歯を噛みしめていた。それを見て縁は色々なことを察した。その時、奥から怒声と獣の咆哮が響き渡り、奥からくすんだ金色の髪のおじいさんが現れた。

 もしかしてこの人が先王様?

 殿下を見ると、先王様から視線を逸らして両手を強く握りしめている。

 ああ……これまで大変だったんだろうな。

 それにしてもこの部屋の惨状は……。

「殿下、先王様はどうして暴れているんですか?」

「自分が魔王だと思い込んでいるらしい。時々こうして暴れて……最近は落ち着いていたんだが」

「普段の先王様はどういった方だったんですか?」

「先王は国の民を思いやるとても立派な人だった。城の者達にも優しく、それでいて時には厳しく。とても良い賢王だった。そんな賢王とも呼ばれた人が変わり始めたのは3年前だった。ちょっとした物忘れから始まり、少しづつ性格も変わっていった。最近はこうして暴れることも多く、ここに閉じ込めるような形になってしまったんだ」

 変わってしまった先王様を見て、悲しく思っているのだろう。眉が寄り、泣き出しそうな顔をしている。