「先王様ご乱心!先王様ご乱心!」

 屋敷の中から沢山の人々の声が聞こえてくる。それはご乱心!ご乱心!と叫ぶ声で、慌てている様子だった。それを聞いた殿下は、悲しそうな顔をしながら屋敷に顔を向けた。一体屋敷の中で何が起こっているのだろう。

「あの……殿下、これは?」

 殿下は言いにくそうに言葉に詰まってから、教えてくれた。

「これは…俺のおじいさま……先王が発狂して騒いでいるんだ」

「発狂?どのような?」

「…………」

「言いにくいですか?最近の先王様の様子は分かりますか?」

「ああ……最近物忘れが多くなっていた」

 なるほどね。

「殿下、物忘れの他に、先王様はイライラしたり、今まで出来ていたことが出来なくなったりなどの症状はありますか?」

「そうだ!そんな感じだ。お前分かるのか?」

「ええ、認知症の症状だと思われます」

「認知症?」

「はい。先王様とお話をすることって出来ますか?」

「ああ、大丈夫だ」

それを黙って聞いていた軍服の騎士が、話しに割って入ってきた。

「お話中に申し訳ありません。殿下、その様な者を先王様に近づけるのはどうかと」

「良い。このままでは先王は悪魔付きとして、処刑されてしまう。今は何であれ希望があるなら、それに縋りたい」

「しかし……」

「俺が良いと言っている。責任は俺が取る」

 グルルル……と殿下が獣の唸り声を上げる。それを聞いた騎士が後ろへ一歩下がり頭を下げた。

「殿下のお心のままに」

 コクリと頷いた殿下は私についてこいと言うように、視線を屋敷の玄関へと向けると歩き出した。私はその後ろを小走りで追いかけた。