ここでウソをついてはいけない気がした。取り繕ったところで私には何も無いし、全て話した方が良さそうだ。
「えっと、そうです。いきなりこの世界に飛ばされて……と言うかこの世界にいました」
王子は私の顔をジッと見つめると、顔を近づけてきた。
ちょっ……待って。
近い近い近い……何この距離感。パーソナルスペースぶっ壊れてますよ。
そう突っ込みかけるも、その言葉を飲み込んだ。
「あの……?」
「お前何か持ってるか?」
「えっと……これですか?」
縁はポケットの中から残っていたアメを2個とスマホを取りだした。王子はそれを興味深げに眺めてから、威圧を込めるように低い声を出してくる。
「他にもあるだろう?」
「ヒィッ……」
一体何のこと?
他にって、何?
もう一度エプロンのポケットの中をまさぐってみても、何も入っていない。その時ふっとあることを思いだした。この異世界に来る少し前に、デイサービス利用者である清水のおばあちゃんが、私の家で飼っている愛猫の黒助にとマタタビの木をくれたのだ。それを袋に入れ、ズボンのポケットに入れていた。