答えない縁を不信に思ったのか、男が剣をグッと握り、力を入れるのが分かった。それからゆっくりと剣が動くと首に触れる。冷たい剣が首に触れるとチリリとした痛みを感じた。それから生温かい何かがこぼれ落ちる。

 あっ……これ血だ、と何故か冷静にそう思った。
 
 このまま黙っていたら、確実に私はこの人に殺される。4日間森を彷徨い、やっと人に出会えたんだ。こんな所で死んで……死んで溜まるか!

 私はクルリと体を翻し、そのままの勢いで土下座した。人生初めての土下座は綺麗に決まったと思う。死を目の前にして、恥や外聞そんな物くそ食らえだ。そんな物を捨てでも私は命乞いをして、生き抜いてみせる。

「申し訳ありません。この森を4日間さまよい歩き、建物を見つけた嬉しさから許可も無く侵入してしまいました。私は迷い人です。何の害もありません」

 縁は顔を伏せたまま、早口で自分の現状を伝えた。

 お願い伝わって。

 ホントに何も害は無いんだよ。

 縁が地面に額を付けたまま動かずにいると、目の前の男性が剣を鞘に収めるのが分かった。それだけでホッと息が漏れる。

 とりあえず死は間逃れたのかな?